お題「新年」


「新年、あけましておめでとー!」
 ぱんっ、と景気のいい音を立て真経津の手にあったクラッカーが爆ぜた。
 一月一日。真経津の言う通り新年だ。だが朝の八時に予告も連絡もなく現れた来客に、俺は挨拶よりもまず叱責を飛ばさなければならなかった。
「……来るなら連絡しろ!」
 
 そんな訳で俺の叱りを笑ってかわした真経津はどこから持ってきたのか、二人がギリギリ寛げる大きさの炬燵を持ち込み、家主の許可もなくリビングへと置いて電源を入れると、まるで一人用だと言わんばかりに中へと潜って大の字になった。
「おい、真経津」
「なに、獅子神さん」
「この炬燵、ちゃんと持って帰るんだろな?」
「置いて帰るけど?」
 薄々予想していた答えに黙って拳骨を喰らわせれば「痛い!」と涙目で訴えてくる。そんな真経津を無視しながら炬燵を占領する体を追い出し、今さっき俺のモノになった炬燵へと足を入れてテレビの電源を点けた。
「獅子神さん、怒ってる?」
 起き上がって座り直した真経津が再び炬燵へと、今度は足だけを突っ込んだ。
「聞かなくても分かってんだろ」
「獅子神さんって、ボクに甘いよね」
「呆れてんだよ」
 そうしとくよ。そう意味深に言った真経津はどこに隠していたのか、赤色のネットに入った大量の蜜柑を取り出し、俺へと強引に押し付けてきた。
「……は?」
 俺と目が合った真経津が笑う。にこ、なんて擬音が聞こえるような完璧な笑顔だった。
「……おい、オマエなあ」
「午後から村雨さんも来るってさ」
「はあ?」
 予想していなかった言葉に、つい、真経津から蜜柑を受け取ってしまう。真経津の綺麗な線を描く、アーモンド型の目が眩しそうに細まる。
「昨日、電話で誘ったんだ。村雨さん、仕事で忙しいって言ってたけど、獅子神さんの家だって伝えたら行くってさ」
「お、おい」
「獅子神さん、村雨さんに遠慮してたんでしょ?」
 遠慮って、なにを。そう聞き返すには心当たりが多すぎた。
 確かに、俺と村雨は年末に近づくにつれ会う機会が減っていた。それは互いに忙しいという理由からだった。だけど俺の中で、村雨が医者という職業だからこそ誘いづらい、という気持ちがあったのは否定できない。いや、俺があいつとの連絡すら減らしていたのは、そういった理由が多分に含まれていた。
「おい、真経津、オマエ……」
「でもボクは午後から叶さんたちに挨拶しに行かないとだから」
「待てよ、真経津」
「残念だけど、村雨さんが来たらボクは出ていくよ」
「……」
「だから、ね。蜜柑、むいてくれるよね?」
 
 真経津が何を考えてこんな、お膳立てするような真似をしたのか、正直言って俺には理解できない。偶々、気が向いただけだったのかもしれない。深く考える理由なんて、どこを探してもないんだろう。真経津晨ってのは、そういう男だ。
 そして俺はこの男にまんまと乗せられ、先ほど手渡された蜜柑の、橙色の薄皮を小間使いのようにせっせと剥いていた。
「白いスジもとってね、獅子神さん」
「指図してんじゃねえよ、アホ。全部食べやがれ」
「口の中にこなこな残るの嫌なんだけど」
「文句言うなら食うなよ」
 そう叱りつつもスジまで取ってやる。どうせ注文通りでないと意地でも食べないだろう。なんせ、こいつらは超が付くほどの我儘なのだから。
「……村雨のヤツ、何時に来るって?」
 できるだけ平坦な声で。それでも真経津には逸る鼓動まで聞こえてるだろう。
「お昼過ぎてから、って言ってたよ」
「そ、そうかよ」
「楽しみだね、獅子神さん」
「……余計なお世話だっつうの」
 あはは、と真経津が嬉しそうに笑った。
「早く来ないかな、村雨さん」
「楽しんでんじゃねえよ、ボケ」
「人聞き悪いなあ」
 ほらよ、と蜜柑を一粒摘んで差し出せば、真経津が大きな口を開ける。食べさせろって事らしい。希望通り、真っ赤な口へと蜜柑を放り込んでやった。


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