もらった本
獅子神の家、その二階、書斎の本棚に見覚えのある本があった。
本は児童書で、赤色の背表紙に丸い文字でタイトルが書かれている。その可愛らしいデザインが、経済学や統計などの本で埋まっている棚にはやや異質に見えた。しかし、だからこそ、頻度高く手に取って読んでいるのだと分かった。
「なんだよ、人ん家の本棚ジロジロ見やがって」
声がし、振り返る。お盆に飲み物を乗せた獅子神が立っていた。座って待っていろ、と言った相手が部屋の中をウロウロしていたので訝しんでいるのだろう。
「あなた、まだこの本を持っていたのか」
訝しむ獅子神を無視し、本棚に収まっていた児童書の背表紙を撫で、引き出す。私の手元に視線を遣った獅子神が「は?」と目を細めた。
「ああ、まあな」
「この本は面白いか?」
大きな書斎机にお盆が置かれる。両手が空いた獅子神が近づき、私の手から児童書を奪い取った。
「オメーは内容、知ってんだろ」
「知っているが、だからこそ興味がある」
書斎机の側にあった椅子に腰掛け、カップに手を掛ける。甘い匂いが湯気と共に鼻腔をくすぐった。
「その本は、そんなに面白かっただろうか?」
獅子神はすぐには答えなかった。本の表紙を開き、パラパラと中を捲っていく。だが視線は本ではなく、記憶を辿っているかのようにフワフワと遠くを見ている。
「……俺は結構、面白えって思ったぜ」
「そうか」
なら、いい。と返し、カップに口を付けた。
「そもそもテメーから貰った本だから……だから大事にいつも読んでんだろうが」
「そうか」
獅子神が私を睨む。だがその表情は、隠し事がバレてしまった子供のようだった。
「……なに笑ってやがんだよ」
「なに、気にするな。あなたが可愛らしいと思ってな」
「くそ、馬鹿にしやがって」
「マヌケに本をやった覚えはあっても、馬鹿に本をやった覚えはないが」
なんだ、そりゃ。と今度はマヌケ面で訊き返す。
「その本は、私のお気に入りでもある。だからあなたにくれてやった」
「つまり、なにが言いてえんだよ」
獅子神の手が、本の角を気にしながら棚へと本を戻す。児童書は元の位置にすっぽりと収まった。
「なに、共有したかっただけだ。深い意味はない」
「……そうかよ」
私と向かい合うように獅子神も座り、自分で淹れた紅茶を飲む。それから、思い出したかのように言った。
「先生も結構、可愛いところあるよな」
紅茶を吹き出しそうになり、思わず咽せる。獅子神を見ればニヤニヤと笑っていた。
「……私はいつも可愛いだろう」
「へいへい、そうだな」