明星


 金色の折り紙を一枚、袋から抜き出す。それを三角形に折り、開き、跡をつけた辺に合わせてまた、三角形を折っていく。途中までは鶴の折り方に似てるな、なんて思いながら手順通り折っていき、手羽先みたいな形の折り紙を量産していた。
 向いに座っている村雨は俺と違い、手羽先みたいなパーツを五つ集めて貼り合わせる作業をしている。神経質そうな手が折り紙を拾い集め、丁寧にセロテープで貼り合わせていく。そうやって出来たのは、折り紙で作られた星だった。
「……あと何個要んだよ」
 作業の手はそのまま、村雨が答える。
「最初に説明したのを忘れたか。ノルマは無い」
「仕事でやってるとは思えねえ杜撰さだな」
「仕事とは、そういうモノだ」
 適当な返事に、そういうもんかよ、と同じく適当な相槌を打つ。村雨は意外にも作業には飽きていないようで、黙々と星を作り続けていた。五つ目、と村雨が呟き、出来たばかりの星を机の端に並べる。言葉通り、机の端には五つの星が行儀良く並んでいた。
 事の発端は、村雨が職場から持って帰った金色の折り紙だった。曰く、入院生活の長い子供たちの為に担当科を問わないクリスマス会を開くのだという。その会に参加できない職員は、飾り作りを担当することになったらしい。その内職に駆り出されたのが俺だった。
 本当は今日、二人で映画でも見るか、なんて話をしていたのだが。村雨邸まで迎えに行った俺を待っていたのは、いつもの困り眉とお揃いの困った顔をした村雨だった。
「けどテメーも案外、優しいじゃねえかよ」
 俺のイメージに住む村雨は、日本のクリスマスなんてのは企業が金儲けの為に生んだ幻想だ、なんて言い捨てそうだが。現実の村雨はせっせと折り紙の星を作り続けている。
 感情の分かり辛い目がチラリと俺を見、すぐに視線を手元に落とした。
「優しさではない」
 俺の言葉に少しの間を置いて村雨が返す。え、と聞き返すと、手は星を作り続けたまま言葉を続ける。
「これは、エゴだ」
 ほら、と出来たばかりの星を、村雨が宙にかざして見せる。村雨が作る星は端までピンと張っていて、とても綺麗な形をしていた。これなら喜びそうだな、と顔も知らない子供たちのことを想像し、そんな自分に気がついて苦笑いした。なるほど、エゴだ。
「テメーのエゴに巻き込まれたのかよ、俺は」
「あなたしか居ないだろう」
 なにを、と聞き返す前に村雨が続ける。
「私のエゴに付き合わせれるのは、あなたしか居ないだろう」
 呆気にとられる。この男はどこまで、俺を側に置いているんだろうか。頬が熱い。
「……そーかよ」
 手元に意識を向けようとしたが、集中が手から離れ霧散していく。仕方がない、休憩にするか。
「休憩にしようぜ」
「甘いモノはあるか?」
 ぱっ、と村雨が顔を上げる。仏頂面で分かり辛いが、いつもより機嫌が良い。
「ケーキ、持ってきてやった」
「あなたが焼いたのか」
「買ってきたヤツだ」
「そうか」
 次はしゅん、と村雨の機嫌が少しだけ萎む。分かり辛いクセして、分かり易い男だよな。
「焼いてほしけりゃ焼いてやるよ」
 村雨は、星を作るのをエゴだと言った。エゴでもいいじゃねえか。相手を想って何かをするのだって、優しさの一つだろ。
 椅子の背に凭れ、タブレットを操作しカレンダーのアプリを呼び出す。十二月二十四日の予定を確認してから「クリスマスケーキ、焼いてやるよ」と、遠回しにクリスマス会に誘ってみる。クリスマス会なんて誘われた事も誘った事もないから、これが正しい誘い方なのかは分からなかったが。村雨は暫く無言だったが、唐突に「ケーキの上にサンタクロースとトナカイは必須だ」とだけ答えた。
「へいへい。お医者様が命じるなら、何人でもつけてやるよ」
「一人と一匹で構わない」
「一人と一匹な」
 砂糖菓子を人や匹で数えるのかは謎だが、村雨の注文を記憶の隅にメモしておく。チョコレートのプレートも付けておいてやるか。いや、それだと誕生日ケーキか。まあ、どっちでもいい。
「聞き忘れてたけどよ、テメーん所のクリスマス会はいつなんだよ」
「二十四だ。しかし、私は参加しない」
 作りかけた手元の星を村雨が再度、手に持って見せる。
「不参加代は支払っているからな」
「参加しねえのに代償を支払わなきゃいけねえのかよ」
「クリスマス会とは、そういうモノだ」
「いや、違えだろ」
 持っていた星を机に置き、村雨が小さく伸びをする。猫みたいだな、とぼんやり思った。
「クリスマス会には神父も来るらしい。歌と紙芝居をするそうだ」
 伸びからくる溜め息を吐きながら村雨が言った。白髪の知人が脳裏に過ぎる。
「天堂か?」
「マヌケ。私の病院に不審者を呼ぶワケがないだろう」
「まあ、ギャンブルやってる神父なんて、信じるにも信じれねえよな」
「それに、不審者は一人呼ぶと、あと二人は来るだろう」
 仏頂面が崩れ、意地悪そうな笑顔になる。
 コイツ、俺の前だと結構冗談言うよな、なんて考えながら、いつもの面子を思い浮かべた。
「確かにな」
 村雨につられ、俺も笑った。


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