パック寿司


 村雨礼二がスーパーに売っているようなパック寿司を食っていた。それも、二〇%割引きされた寿司を。
「いや、そもそも何で俺の家に居んだよ」
「あなたの家の合鍵を持っていたからだが」
「自分の家に帰りやがれ」
 しっしっ、と追い払うジェスチャーをすれば、村雨がムッと不満そうな顔をする。勝手に上がって勝手に寿司を食っている癖に、俺の態度へ不満を感じている意味が分からないが。
 園田たちを探せば、突然訪れ他人の家だというのに寿司を食う村雨が怖かったのか、家具の陰から小さくなって覗き見ていた。お前らもしっかり働けよ。なんの為の雑用係だ。
「それより、なんでテメーは寿司食ってんだよ」
「押し付けられただけだ」
「は?」
 理解不能、と態度で示せば、叶たちだ、と村雨。そこでようやく思い出した。真経津が家に遊びに来い、と誘いのメールを送っていたのだ。確かあれは、先週送ってきていたはずだ。
 用事が重なっていた俺は真経津の誘いに断りを入れていたのだが、村雨は律儀に行っていたのだろう。だからと言って、俺の家でパック寿司を食べる理由にはならないのだが。
「これは叶のだ。食べたくて買ったらしいが、タマゴだけ食べて飽きたらしい。後は全て私に押し付けてきた」
 察しが悪い俺に、というかそもそも察するつもりもないのだけど、村雨が苛立った声で説明してくれる。
「相変わらず自由だな、あいつは」
 自由だからこそ叶という男なのだが。呆れ半分、感心半分で返せば、パックの寿司を食べ終わった村雨が箸を置く。
「ご馳走様」
「……行儀は良いよな、オメーは」
「当たり前の事をしているだけだが」
「ああ、いや。そうなんだけどよ」
 機嫌が悪そうな目が俺を睨み、人形のような口が動いた。
「それより、獅子神。何か作れ」
「……は?」
 突然のオーダーに聞き返すが、村雨は録音機のように「何か作れ」としか言わなかった。細っこいクセによく食う男が、駄々っ子が我儘を押し通す時にするような、口を一文字に結び俺をじっと見てくる。
「ガキみたいな態度とんなよな」
「では、何か作れ」
「それとこれとは話が違えだろ」
 叱るように言えば、村雨は聞く気がないのか、俺から視線を外して明後日の方向を見る。コイツはたまに、俺に対してだけ子供みたいな態度をとってきやがる。
「……寿司は口に合わなかったのかよ」
 さっきまでと角度を変えて問えば、村雨がまた、俺へと視線を戻す。
「米がパサついていた」
「そりゃ」
 そうだろ、とは続けなかった。スーパーの、それも値引きされた寿司を、この男は今まで食べた事がなかったのかもしれない、という事に気がついてしまったからだ。そして俺は、口にしなくてもパサついた米の味を知っていて。
 どう足掻いても埋める事が出来ない村雨との差を言葉にしてしまうのが悔しかった。悔しい、いや、悲しいのか。それとも、怒りか。名前のない感情が俺を誘うのが分かる。
 首の後が重い。劣等感を足元に感じ、動けなくなった。
 しかし、押し寄せる波は俺の足を掬うことはなかった。数秒、漣を感じ、こんなもんか、と頭を掻く。そうだ、こんなもん、だろ。
「……何が食いてえんだよ」
 空袋にパックのゴミを詰めていた村雨がパッと顔を上げる。その目は聞かなくても肉が食いたいのだと訴えていた。
「あなたなら、分かってるだろう」
「まあ、そうだな」
 分かっている、というか、分かるようになっちまった、なんだけどな。
「腹減ってうるせえお医者様の為に、特別に作ってやるよ」
「獅子神、デザートも付けろ」
「どんだけ食う気なんだよ」


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